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東京家庭裁判所 昭和56年(少)4158号 決定 1981年8月21日

少年 T・M(昭四一・一二・一五生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第一  Aと共謀のうえ、昭和五六年二月一八日午後三時一〇分ころ、東京都葛飾区○○×丁目×番地先国鉄総武線ガード下空地において、B子が遺失した同人所有に係る第一種原動機付自転車一台(時価三万円位相当)発見し、これを自己のものとする意図で拾い取つて横領し、

第二  在籍する○○中学校において、同校教諭A・N(当時二七歳)担当の理科の授業を受けていたところ、「一服しようぜ。」と述べながら、同級生のCと共に教室を出て屋上に赴き喫煙した後教室に戻つたところ、同教諭から注意されたことから、昭和五六年五月一二日午後一時四〇分ころ、東京都葛飾区○○×丁目××番×号前記中学校三年一組教室内において、同級生の前記C及びDの両名と共に、同教諭に近付き、同人に対して、交々、「てめえ突張つてんだよ。」、「お前は生意気だ。」などと申し向け、前記Cにおいて、黒板消しを右手に持ち、これを同教諭の顔面に五、六回押しあてて顔面をチヨークの粉だらけにし、床上のパン片を拾って、左手でえり首をつかんで引き寄せ、「食えよ。」と言いながら同教諭の口に押しあて、少年において、所携の太鼓用バチで同教諭の右腕を二回位たたき、前記Cにおいて、「先公対まん張るときやこうやるんだよ。」と言いながら、左手でえり首をつかんで二、三回ゆすつて突き放し、少年において、右手拳で胸及び腕を数回小衝き、同教諭が同教室前の廊下に退出したところ、少年及び前記Dにおいて、同教諭のえり首をつかみ、もつて同教諭に対して、数人共同して暴行を加え、

第三  同級生のEの机の上に足を乗せたとこる、同人から、「足を机の上にあげるなよ。」と言われたことから、これに立腹し、「この野郎、よし対まんだ。屋上に来い。」と申し向けて、前記中学校校舎屋上に至り、ここに同校生徒F、前記C、G、H、I外数名の者と互いに意思を相通じ、もつて共謀のうえ、昭和五六年七月一五日午前一〇時三五分ころ、前記中学校校舎屋上南端付近において、少年において、前記Eに対して、腕付近を足蹴りして暴行を加え、

第四  前記Eが前記中学校から下校しようとしたところ、前記Fにおいて、「やつちやおう。」と述べ、ここに前記F、D、C、H及びJ外の者と互いに意思を相通じ、もつて共謀のうえ、昭和五六年七月一五日午後〇時二五分ころ、前記中学校校舎一階下駄箱付近において、前記Eに対して、少年において、体当たりし、同人がうづくまるところを、前記F、D、Jにおいて、足蹴りして、それぞれ暴行を加え、よつて同人に対し、全治まで一〇日間位を要する頭部、顔面、胸部挫傷、口唇挫創、歯一本欠損の傷害を負わせ

たものである。

(法令の適用)

第一について、刑法六〇条、二五四条

第二について、暴力行為等処罰ニ関スル法律一条(刑法二〇八条)

第三について、刑法六〇条、二〇八条

第四について、刑法六〇条、二〇四条

(少年院送致の理由)

少年の資質、環境等は、家庭裁判所調査官○○○○作成の少年調査票記載のとおりである。

少年は、中学入学後、自転車盗などで数回補導され、また、次第に学校内で本件共犯者らなどと不良グループ化し、昭和五六年二月、本件第一の犯行に及んで警察の取調べを受けたが、三年に進級するや、不良交友し、学校内では授業中に抜け出したり、ガラスを割つたり、職員室内に入りこんで教諭の机の中から無断でライターなどを持ち去つたり、他の教室の授業を妨害するなど勝手放題の行動を続け、同年五月、授業中に抜け出したふるまいを注意した教諭に対する粗暴極まる暴力事件である本件第二の犯行に及び、警察の取調べを受け、この犯行について、いわゆるマスコミに報道されるところとなるも、英雄気どりで罪障感を持つに至らず、なお授業妨害、校長室乱入など傍若無人な態度をとり続け、同年七月七日、家庭裁判所調査官の面接調査を受けたのにかかわらず、同月一五日、本件第三、第四の少年が率先した同級生に対する執ようなリンチ事件に及んだものであるところ、本件第二の犯行は、自己の非をたなにあげて、教諭という立場を無視するは勿論、およそ人間の尊厳さをかえりみない犯行であり、さらに、警察の取調べや家庭裁判所調査官の面接調査を受けたのにかかわらず、これに反省することなく、自己の身勝手な行動をきつかけとして同級生をいびり集団暴行による傷害事件に至つた本件第三、第四の犯行に及んだことは、犯情悪質であり、少年の問題性の強さ、非行性の深化を物語るものといいうる。このほか、基本的しつけを十分身につけず、自主性、自律性、社会性に乏しく、とかく雰囲気に左右されて軽率な行動に及びやすいといつた少年の性格、行動傾向や少年を放任しがちで少年を規制し指導する能力に乏しい保護者に多くを期待できないことなど、本件調査、審判にあらわれた一切の事情を考えあわせると、少年の非行性はとうてい在宅措置ではこれを除くことができず、収容措置によることが必要であると思料されるので、少年を初等少年院に送致することとし、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条二項を適用して主文のとおり決定する。

なお、少年の非行性の程度や在籍中学校が少年を受け入れる意向を示していること等に照らし、少年院において、少年に対しては短期処遇によるほか、「一 在籍中学校との連けいを密にすること。二 できる限り三か月間位で仮退院させるよう努めること。三 仮退院後すみやかに学業に復帰できるように配慮すること。」が必要であると思料し、別途勧告した次第である。

(裁判官 豊田健)

処遇勧告書<省略>

〔参考一〕少年調査票<省略>

〔参考二〕鑑別結果通知書<省略>

〔編注〕 抗告審(東京高 昭五六(く)二〇四号 昭五六・九・一一抗告棄却決定)

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